総入れ歯治療と高齢者の健康
北海道医療大学歯学部歯科補綴学第一講座 池田和博
近年、伝承として言及されてきた口と全身との関連が「科学」として捉えられるようになり、口の機能の全身機能へ及ぼす影響が注目されています。特に,高齢者人口が増加の一途を辿る中、高齢者のQOLに果たす、かみ合わせ・咀嚼の重要性が指摘されています。
老人病院での調査結果について
老人病院に入院中の41名(男10名、女31名、平均年齢82歳)を対象に、調査を行ないました。入れ歯での咀嚼状態が「不良」の群で100%、「まあまあ」で60%、「良好」で42%が「痴呆」と判定されました。また、「寝たきり」の割合は、「不良」の群で78%、「まあまあ」で65%、「良好」で50%が「寝たきり」と判定されました。
これらの結果は、咀嚼機能と身体活動との密接な関連を示唆するものと考えます。さらに、使用する義歯の適否が咀嚼機能に大きく関与していることを考えあわせますと、不良な義歯を装着している患者は痴呆の程度や全身状態の悪化が進行している場合が多いことを意味しています。
かみ合わせ・咀嚼が脳に及ぼす影響について
奥歯を抜いたネズミの実験で奥歯を抜いた結果、脳(海馬)のアセチルコリン濃度が下がりました。アセチルコリンというのは神経伝達物質の一つで、アルツハイマー病患者では、この濃度が低下し、記憶の状態が悪くなっていることが分かっています。
奥歯を抜いてしまったネズミはアルツハイマー病と似た状態に陥る、ということが確認されたわけですので、咀嚼できないことがアルツハイマー型痴呆の発症リスクになると考えられます。
従って、高齢者におけるかみ合わせ・咀嚼機能の回復は、活動エネルギーの確保ばかりではなく、日常生活動作能力を高めると共に、加齢に伴う全身機能の低下や恒常性の劣化を抑制し、長寿・自立・生甲斐など、QOLを確保するための重要な因子の一つであると言えます。 |