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  残存歯数が少ない高齢者ほど、記憶をつかさどる大脳の海馬付近の容積が減少していることが、東北大学医学、歯学両学部の共同研究で突き止められました。これまでの医学研究で、アルツハイマー病になると海馬が萎縮することが知られており、同大学院歯科学研究科長の渡辺誠教授らは「痴呆の予防には、自分の歯の数を保つことが大切であることが証明された」としています。

  調査は、東北大の医学・歯学両学部合同で仙台市で行なわれました。医学領域の調査は従来の血圧や血液、心電図などの検査に加え、認知機能や運動機能、精神状態、希望者へのMRI(磁気共鳴画像化装置)検査を行って総合機能を評価。また、歯科は口腔内状況と咀嚼機能、残存歯数と認知機能との関連性などについて調査しました。検査を受けた高齢者は「健康群」(652人、55.8%)、「痴呆予備群」(460人、39.4%)、「痴呆の疑い」(55人、4.7%)の3群に分けられました。その結果、健康群の高齢者は平均14.9本の歯が残っているのに対し、痴呆の疑いが持たれた55人は9・4本と少なく、歯の数と痴呆との関連が示唆されました。
 

 さらに、検査希望した健康群と痴呆予備群の高齢者195人(69〜75歳)の脳をMRIで撮影し、残存歯数や噛み合わせの数と脳灰白質の容積との関係を調べました。その結果、歯の数が少ない人ほど、海馬付近の容積が減少。意志や思考など高次の脳機能に関連する前頭葉などの容積も減っていることが分かりました。
 これら研究成果を踏まえ、渡辺教授は「噛むことで脳は刺激されるが、歯がなくなり、歯の周辺の神経が失われると、脳が刺激されなくなる。それが脳の働きに影響を与えているのではないか」と話しています。

海馬

大脳の側頭葉の内側にあり、記憶や学習のメカニズムを担っています。タツノオトシゴのような形をしていることから命名されました。入ってきた情報は海馬に一時的に保存され、「長期増強」という定着機能によって記憶に変わると考えられています。
   
   
   
     

アルツハイマー型痴呆との関わり                                   

丹根一夫       
広島大学歯学部教授

 

 アルツハイマー病は、中枢神経系におけるアミロイドベータ蛋白の沈着とこれによる神経細胞の喪失により発症します。
  丹根教授の研究では、正常マウスと先天的に歯の生えない大理石骨病マウスを対象として、中枢神経系の大脳皮質、海馬、視床などにおけるアミロイドベータ蛋白の沈着と海馬周辺の神経細胞数について世界で初めて検討しました。その結果、大理石骨病マウスでは、特に大脳皮質においてアミロイドベータ蛋白の沈着による老人斑の形成が多数検出されたのに対して、正常マウスではまったく認められませんでした。また、記憶・学習機能を司る海馬周辺の錐体細胞数を比較すると、大理石骨病マウスではその数が有意に少ないことが明らかとなりました。同様の結果は異なる物性の餌を与えた正常マウスでも確認され、固形餌飼育群と比べ粉末餌飼育群において、大理石骨病マウスの所見がより顕著に認められました。さらに、正常マウスを使った迷路実験の結果、ゴール到達時間が粉末餌飼育群で長くなり、実験2、3日目では有意の差が明らかとなりました。このことは、餌の物性による咀嚼を介して中枢へ伝達される刺激の差がマウスの記憶・学習機能に関係していることを強く示唆する結果と言えます。

  以上の結果は、常に食物をよく噛んでいる動物と比べて、先天的に歯の生えない大理石骨病マウスや恒常的に軟性食を摂取してきたマウスでは、咀嚼による中枢への刺激が恒常的に減少し、中枢神経系の各部位におけるアミロイドベータ蛋白の沈着や、記憶・学習機能を制御する海馬神経ニューロン数の減少が惹起されることを実証する世界初の発見と言えます。実際のアルツハイマー病患者の口腔内を観察すると、歯の喪失が顕著で、長期間にわたり咀嚼機能が大きく低下していることが容易に推察されますが、このことがアルツハイマー病の発症に関与している可能性が強く示唆されます。さらに、歯科治療により咀嚼機能を賦活させること、あるいは何らかの特効薬によりアミロイドベータ蛋白を排除することにより、同蛋白の沈着や神経細胞の減少を抑制し、ひいては痴呆の発現を予防することができるものと大きな期待が寄せられています。そこで、これらの研究の成果を踏まえ「日頃から歯を大切にし、よく噛むことがボケの予防につながる!!」を発信したいと思います。

 
 
 
 
 

健康情報ネイチャーインタフェイス
咀嚼とヘルスケア                         日本咀嚼学会理事長 斉藤滋

噛むと頭の働きがよくなる
<写真1>  
 食前食後のマウスの脳の様子を見ると(写真1)、食後は大脳皮質(外側)や脳幹(内側)にある種々の生体感覚や、運動情報だけでなく、脳全体の活動(緑色→黄色→赤色に変化するほど活発になる)が、盛んであることがわかり、特に満腹中枢や記憶をつかさどる「海馬」が活性化していることがわかります。食べ物をよく噛んで食べると海馬が活性化して記憶力がよくなります。つまり頭の働きがよくなることにつながります。

噛むと痴呆が予防できる
 
痴呆症の程度が進むにつれて口腔機能は悪化する現象が見られます。また、咀嚼時のヒトの脳の状態を調べると、日ごろよく噛んで食べている人ほど大脳皮質の運動野(こめかみのうしろ辺りにある)が強く活性化しており、口腔機能と痴呆の関連性が推測できます。また、”老化を促進させたマウスの歯を削ったとたんに初期記憶障害が進行した“という実験結果もあります。加齢による初期の痴呆症状はよく噛むことでその進行をおさえることができるのは確実です。

噛むと顔の筋肉と骨が鍛えられ、しわの予防になる
 
高齢になると現われる顔や口元のしわの原因の一つに、顔の筋肉および骨の衰えがあります。噛むためには顔全体の筋肉とその筋肉を支えている顔やあごの骨を動かすので、高齢者でも若々しく見えます。

                                      北海道保険医会保険医新聞より 2002_12_05

 
 
 
 
 

総入れ歯治療と高齢者の健康
                              北海道医療大学歯学部歯科補綴学第一講座 池田和博

 近年、伝承として言及されてきた口と全身との関連が「科学」として捉えられるようになり、口の機能の全身機能へ及ぼす影響が注目されています。特に,高齢者人口が増加の一途を辿る中、高齢者のQOLに果たす、かみ合わせ・咀嚼の重要性が指摘されています。

老人病院での調査結果について
 老人病院に入院中の41名(男10名、女31名、平均年齢82歳)を対象に、調査を行ないました。入れ歯での咀嚼状態が「不良」の群で100%、「まあまあ」で60%、「良好」で42%が「痴呆」と判定されました。また、「寝たきり」の割合は、「不良」の群で78%、「まあまあ」で65%、「良好」で50%が「寝たきり」と判定されました。
 これらの結果は、咀嚼機能と身体活動との密接な関連を示唆するものと考えます。さらに、使用する義歯の適否が咀嚼機能に大きく関与していることを考えあわせますと、不良な義歯を装着している患者は痴呆の程度や全身状態の悪化が進行している場合が多いことを意味しています。

かみ合わせ・咀嚼が脳に及ぼす影響について
 奥歯を抜いたネズミの実験で奥歯を抜いた結果、脳(海馬)のアセチルコリン濃度が下がりました。アセチルコリンというのは神経伝達物質の一つで、アルツハイマー病患者では、この濃度が低下し、記憶の状態が悪くなっていることが分かっています。
奥歯を抜いてしまったネズミはアルツハイマー病と似た状態に陥る、ということが確認されたわけですので、咀嚼できないことがアルツハイマー型痴呆の発症リスクになると考えられます。

 従って、高齢者におけるかみ合わせ・咀嚼機能の回復は、活動エネルギーの確保ばかりではなく、日常生活動作能力を高めると共に、加齢に伴う全身機能の低下や恒常性の劣化を抑制し、長寿・自立・生甲斐など、QOLを確保するための重要な因子の一つであると言えます。

   
   
   
 
 

小野塚実1)、藤田雅文1)、渡邊和子2)、久保金弥3)、横山佳朗4)
岐阜大学医学部1) 神経高次機能学講座、2) 生理機能学講座、
朝日大学歯学部3) 解剖学講座、4) 補綴学講座

 高齢化に伴い健康寿命の延長が日本はもとより世界的な大きな社会問題として取り上げられています。近年口腔機能と痴呆の関連性が指摘されるようになり、とくに咀嚼と高齢者の知的機能が注目されています。MRIを用いて高齢者の海馬の活動レベルを咀嚼刺激により上昇させることを神経科学的に解析しました。

(1) 咀嚼刺激による脳活動の変化を測定したところ、運動野、体性感覚野、補足運動野、視床、島、小脳の神経活動の増強が有意に認められました。
   
(2) 咀嚼刺激によって記憶の向上が高齢者で見られました。咀嚼刺激は大脳皮質のネットワークに適度な刺激を与えて、海馬への情報入力に促通効果をもたらしていることが明らかになりました。咀嚼は食物摂取のためだけでなく、高齢者の知的機能を保持し健康に老いるためにきわめて重要であることがわかりました。
 
 
 
 
   東京都老人総合研究所では、都内の65歳から84歳までの高齢者405名を対象に、咀嚼能力と全身機能の関係を調査しました。その結果、咀嚼能力の高い人は低い人に比べて、天然歯数(虫歯や歯周病のない歯−噛める歯であることが重要)が多く、骨のカルシウム量が多く、開眼片足立ちの出来る時間が長かったという結果でした。この結果から、歯の良い高齢者は噛む力が強く、健康で活動的な生活を送っている姿が浮かび上がってきます。
 
 
 
  (1) 残存歯が9本以下で入れ歯を使っていない人に寝たきりもしくは日常生活に介護が要る人が多い。
   
  (2) 残存歯が9本以下で入れ歯を使っている人に寝たきりもしくは日常生活に介護の要る人がずっと少ない。
   
  (3) 残存歯が20本以上ある人に寝たきりは殆どいない、そして噛める人は寝たきりが少なく、高齢でも仕事をしている。
 
 

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